【中小企業診断士二次試験】令和３年度_事例Ⅰ_趣旨とふぞろいで再現答案分析[くま：開示得点79]

ニッチ戦略、高付加価値分野への経営資源の再配分について、経営戦略の視点から分析する能力を問う問題である。
◆Ａ：ニッチ戦略、高付加価値分野への経営資源の再配分　→　経営資源の集中投下
◆Ｂ：経営戦略の視点　→　戦略レイヤー（経営者視点）

③高精度が求められる分野に経営資源を集中させるため

高付加価値が求められる分野への経営資源の集中という、ニッチ戦略の見本の様な解答になっています。

「高付加価値」という一般的な言葉ではなく、与件文に記載のある「高精度」を使用しているのも問題の意図に寄り添っていて良いと思います。

②外部資源を活用し、顧客ニーズに対応する分業体制を構築
③高精度が求められる分野に経営資源を集中

「何をするか」が端的に記載されており、戦略レイヤーでの解答になっています。
「どうやってするか」の戦術レイヤーの方がイメージしやすいので書きやすいですが、事例Ⅰでは戦略を求められることが多いため注意しておきましょう。

●Ｃ：外部環境の変化に言及できているか（外部環境という「因」によりファブレス化した「果」、となる様に因果を繋げる）
●Ｄ：戦略を記載しているか（今回はこれが趣旨の「経営資源の集中投下」に繋がる様に設定する）
●Ｅ：戦略の効果を記載しているか

①デジタル化に伴い、専門知識が不要となり、差別化が図りにくくなったこと。

全て、外部環境の変化を的確に押さえています。
「デジタル化（因）」→「（果）専門知識が不要（因）」→「（果）差別化が図りにくくなった」と、因果関係が綺麗に繋がっているところも高く評価したいポイントですね。

最小限の繋ぎで文字数を節約しつつ、要素を多数盛り込むことに成功しています。

あえて言うなら、要素の３つとも「参入障壁」視点のため、「単価減」など金額面の視点を入れると更に加点が見込めそうです。

②外部資源を活用し、顧客ニーズに対応する分業体制を構築するため。
③高精度が求められる分野に経営資源を集中させるため

「分業体制構築」「高精度への資源集中」どちらも戦略で「何をするべきか」を説明できています。
差別化を「C：外部環境の変化」で使用していますが、こちらに回すのもアリかと思います。

もし「差別化」をここに入れるなら、こんな感じですね。
→③高精度分野に経営資源を集中し他社と差別化するため

②外部資源を活用し、顧客ニーズに対応する分業体制を構築するため。

顧客ニーズへの対応については与件でも言及があり、分業体制を構築する「理由」としても説得力があります。
二次試験では要素を「与件から取ってくる」か「一次知識等から補完」するかどちらかになります。
設問や事例によって優先順位は変わりますが、一応の目安としては「与件」→「一次知識」で考えておく方が無難です。

あくまでも二次試験の解答のヒントは与件にあり、足りない部分を一次知識から補完する、という姿勢で取り組む方が得点が安定します。

二次試験は60点を取る試験のため、満点を狙うよりは無難に・安全にを心掛けましょう。

先代経営者からの事業承継や後継経営者の新規事業の立ち上げに関して、経営組織の視点から分析する能力を問う問題である。
◆Ａ：事業承継や後継経営者の新規事業の立ち上げ
◆Ｂ：経営組織の視点　→　幸の日も毛深い猫の後半「権限移譲/部門/階層/ネットワーク/コミュニケーション」を利用

①前職での共同プロジェクトの人脈と活用するため、
②広告代理店でのノウハウを活用し、紙媒体に依存しない分野へ事業を拡大するため、
③既存顧客の広告制作に対する新規の需要を創造するため

３つとも「新規事業の立ち上げ」について言及しており、要素を多く取り込んでいます。
その反面、「事業承継」については関連性が弱く、解答の方向性が少し偏ってしまった印象です。

①前職での共同プロジェクトの人脈と活用するため、
②広告代理店でのノウハウを活用し、紙媒体に依存しない分野へ事業を拡大するため、

事業の拡大というゴールを目指して、人脈を活用するという組織作りの観点を盛り込んでいます。
また、「ノウハウ活用（因）」→「（果）事業拡大」と因果も繋がっており、説得力が増しています。

●Ｃ：事業承継
●Ｄ：前職の知見・ノウハウ
●Ｅ：戦略の効果

直接的に該当する要素は見られませんでした。
この設問では「経験のなかった３代目に」という設問文のヒントから、「経験を積ませる必要があった」という出題者の意図を捉える必要がありました。（僕も出来ていませんが…）

「後継者としての育成により事業承継を進めるため」と入れておくと、加点が見込めると思います。

①前職での共同プロジェクトの人脈と活用するため、
②広告代理店でのノウハウを活用し、紙媒体に依存しない分野へ事業を拡大するため、

人脈＋ノウハウの２つの観点で要素を押さえています。
事例Ⅰは「人事・組織」がテーマのため、「人脈活用」だけでも十分ではありますが、人事の観点に寄せる意味で「採用」まで踏み込むと加点が見込めると思います。

②広告代理店でのノウハウを活用し、紙媒体に依存しない分野へ事業を拡大するため、
③既存顧客の広告制作に対する新規の需要を創造するため

個人的に、この解答はかなり好きです。
②では事業拡大という「新規」に対する戦略の効果、③では需要創造という「既存」に対する戦略の効果に分けているからです。

二次試験では「多面的に解答したほうがい」と口を酸っぱくして言われると思います。

多面的な解答にするためには複数視点で自分の解答を作る必要がありますが、代表的なものに「内部・外部」「新規・既存」の軸があります。
まずはこの２つを意識しておくのがお薦めです。

事例企業の競合との差別化や新規事業と既存事業とのシナジー効果について、事業戦略の視点から分析する能力を問う問題である。
◆Ａ：競合との差別化、既存事業とのシナジー効果
◆Ｂ：事業戦略の視点で分析　→　「広告制作業で何をするか」を問われている

①広告制作業のノウハウの取得、
②新たな外部ネットワークの構築。

「ノウハウの取得」＋「外部ネットワーク構築」によって他社と差別化していこうというシナリオが伝わってきます。
ともに差別化のための材料にもなりますし、外部ネットワークの構築も、シナジー効果が期待できそうです。

①広告制作業のノウハウの取得、
②競争が激しく、市場開拓のための資源もないため、受注が増加していないこと

全て「広告事業」の内容です。
今回の設問で問われているのは「事業」戦略、つまり広告事業の視点です。

戦略を問う問題は多いですが、問われている対象が「全社」なのか「事業」なのか、単位を常に意識しましょう！

●Ｃ：利点(内部/外部)
●Ｄ：欠点(内部/外部)

①広告制作業のノウハウの取得　→　内部
②新たな外部ネットワークの構築　→　外部

内部と外部、両方の利点を挙げることができています。
欲を言えば、「外部ネットワークの構築」によってもたらされる利点まで踏み込めると、もっと加点が期待できたように思います。

例えばこんな感じです。
→外部ネットワークとの連携による高付加価値化で既存事業とシナジーを生み他社と差別化する

今回のA社は新規事業の競争力に問題があります。
文字数によりますが、余裕があれば「シナジー」や「差別化」など、競争力強に繋がるものを明記しておくのもアリかと思います。

また、多角化で最も一般的なメリットは「経営リスクの分散」です。
ひとつの事業だとそれがコケた時にダメージが大きいため、複数の事業に手を広げてリスクを最小化する戦略は多くの企業で採用されます。

多角化のメリットの一つとして、覚えておきましょう。

①経営資源の分散　→　内部
②競争が激しく、市場開拓のための資源もないため、受注が増加していないこと　→　外部

欠点も内部と外部、両面で捉えることができており、多面的な解答になっています。

「経営資源の分散」は経営資源の少ない中小企業にとってありがちな問題点です。
「多角化」＝「メリット：経営リスク分散　＆　リスク：経営資源分散」とセットで覚えておくと、困ったときに役に立ちます。

協力企業との関係とネットワークの構築について、助言する能力を問う問題である。
◆Ａ：協力企業との関係
◆Ｂ：ネットワークの構築

①プロジェクト間での連携を強化し、ネットワークを強化する。
③外部企業から出向受け入れを行い、ノウハウの蓄積を図る

①で関係性強化、③で人材交流、と「A：協力企業との連携」と「B：ネットワーク構築」に寄り添った解答になっています。

特に、出向受入については加点要素になったかは分かりませんが（ふぞろい加点項目には無し）、事例Ⅰの人事観点にもマッチする内容となっており、良解答だと思います。

●Ｃ：発展のための取り組み
●Ｄ：取組の効果

①プロジェクト間での連携を強化し、ネットワークを強化する。
③外部企業から出向受け入れを行い、ノウハウの蓄積を図る

「連携強化」と「出向受け入れ」で共に発展のための取組に言及しています。
連携強化について「情報共有」などもう一歩踏み込むと加点要素が増えたと思います。

「②新規の外部企業を開拓し、リスクの分散を図る」については正直、加点に繋がったかどうかが分かりませんが、おそらく加点項目になっていないと思います。

理由はこの設問の制約です。
設問に「2代目が構築してきた外部企業との関係をいかに発展」とあるため、新規の外部との関係構築は出題者の意図に入っていないと考えられるためです。

①プロジェクト間での連携を強化し、ネットワークを強化する。
③外部企業から出向受け入れを行い、ノウハウの蓄積を図る

「ネットワーク構築」と「ノウハウの蓄積」、ともに取組の効果が挙げられています。
欲を言えば「それによってどうなるのか？」という、この一歩先まで言及できていれば加点が見込めたと思います。

「ネットワーク構築」と「ノウハウ蓄積」ともに最終目標としては「新規顧客の開拓」や「収益の向上」です。

二次試験では「助言には効果を添えて」と良く言われます。

この「効果」には事例企業の抱える問題点（今回であれば競争力が無いことによる収益性の低さ）を解消するものを挙げると、与件に寄り添った解答になりやすいです。

次世代経営者の事業戦略や経営組織の構築に関わる論点について、提言する能力を問う問題である。
◆Ａ：次世代経営者の事業戦略
◆Ｂ：経営組織の構築　→　幸の日も毛深い猫の後半「権限移譲/部門/階層/ネットワーク/コミュニケーション」を利用

①営業体制を強化し、新規顧客の獲得を図る、②図案作成力、コンサルティング力の強化を図る、
①営業人員を採用する。②OJT・研修で能力開発を行う。以上により、売上の拡大を狙う。

今回は「長期的な」と表現されていることから「未来に向かっての施策」である必要があり、事業戦略が問われていることから「何をすべきか」を解答する必要があります。

与件から最も素直に読み取れるゴールは新規市場開拓や新規顧客の開拓による「売上拡大」が考えられ、これを軸に回答するのが最も自然ではないでしょうか。

①営業体制を強化し、新規顧客の獲得を図る、②図案作成力、コンサルティング力の強化を図る、
①営業人員を採用する。②OJT・研修で能力開発を行う。以上により、売上の拡大を狙う。

趣旨に「経営組織の構築」と明記されていることから、組織構築の観点を入れる必要があります。
その意味で「①営業体制を強化」は課題となる営業力の強化にも繋がり、新規顧客獲得による売上拡大のステップになります。

営業に上手くリソースを割けていないことが与件から読み取れるため、「営業人員の採用（因）」→「（果）営業体制の強化」と繋がるこの流れは加点に繋がったと思います。

●Ｃ：長期的な課題
●Ｄ：解決法

課題は
①営業体制を強化し、新規顧客の獲得を図る、②図案作成力、コンサルティング力の強化を図る、
解決策は
①営業人員を採用する。②OJT・研修で能力開発を行う。以上により、売上の拡大を狙う。

個人的には、解決策に挙げている「売上の拡大」が長期的な課題になるのではないかと思います。
時系列に並べるとこうなり、「売上の拡大」が最後に来るためです。

「営業人員採用（人事）」→「営業力強化（組織）」
　＋
「能力開発（人事）」→「図案作成力、コンサルティング力の強化（人事）」
　↓
「新規顧客の獲得」→「売上の拡大」

今のままでも十分得点は稼げていると思いますが、こちらの方がいいのかなと感じました。

課題は
①新規顧客の獲得による売上の拡大
解決策は
①営業人員の採用による営業体制の強化（組織観点）
②OJT・研修で能力開発を推進し図案作成力、コンサルティング力を強化する（人事観点）

時系列に沿って、一番遠いものを長期的な課題にすると綺麗に纏めやすいです。