【中小企業診断士二次試験】令和３年度_事例Ⅰ_趣旨とふぞろいで再現答案分析[まよ：開示得点75]

ニッチ戦略、高付加価値分野への経営資源の再配分について、経営戦略の視点から分析する能力を問う問題である。
◆Ａ：ニッチ戦略、高付加価値分野への経営資源の再配分　→　経営資源の集中投下
◆Ｂ：経営戦略の視点　→　戦略レイヤー（経営者視点）

理由は、
事務用印刷の技術革新による競争激化を受け、工場を持たずに、顧客ニーズへの対応力を活かした高精度・高品質な美術品分野に経営資源を集中させることで、価格競争を避ける差別化集中戦略をとったため。

高付加価値分野への経営資源の集中による差別化集中戦略、というニッチ戦略そのものズバリの解答になっています。

理由は、
事務用印刷の技術革新による競争激化を受け、工場を持たずに、顧客ニーズへの対応力を活かした高精度・高品質な美術品分野に経営資源を集中させることで、価格競争を避ける差別化集中戦略をとったため。

戦略について求められている場合は「何をするか」、つまり「WHAT」を答えることが必要です。
前半部分はやや戦術要素とも捉えられますが、「後半部分の経営資源の集中による差別化集中」で戦略を指摘することができています。

●Ｃ：外部環境の変化に言及できているか（外部環境という「因」によりファブレス化した「果」、となる様に因果を繋げる）
●Ｄ：戦略を記載しているか（今回はこれが趣旨の「経営資源の集中投下」に繋がる様に設定する）
●Ｅ：戦略の効果を記載しているか

理由は、
事務用印刷の技術革新による競争激化を受け、工場を持たずに、顧客ニーズへの対応力を活かした高精度・高品質な美術品分野に経営資源を集中させることで、価格競争を避ける差別化集中戦略をとったため。

「技術革新（因）」→（「果）競争激化」と因果関係を繋げつつ、外部環境について触れてます。

戦略面に字数を割くために外部環境への言及を最小限にした様に見受けられますが欲を言えばあと一歩、技術革新によってなぜ競争激化したかの理由を入れたいところです。

「印刷技術の革新での参入障壁低下と競争激化に対し、」とすれば「参入障壁低下」の要素を追加でき、加点が見込めます。
増えた分の文字数は後半を「高精度・高品質な美術品分野への経営資源の集中により」とすることでカバーできます。

理由は、
事務用印刷の技術革新による競争激化を受け、工場を持たずに、顧客ニーズへの対応力を活かした高精度・高品質な美術品分野に経営資源を集中させることで、価格競争を避ける差別化集中戦略をとったため。

「工場を持たない（＝ファブレス化）」→「経営資源の集中」→「差別化集中戦略」と段階を追って内部の視点で戦略について触れており、分かりやすいです。

欲を言えば、外部の視点が欲しいところです。
ファブレス化のメリットは一次試験の範囲にある様に「外部の高い専門技術を持った競合相手を選ぶことで、自社が持たない高品質の技術を利用できる」ことです。

「協力企業と分業することで」などの外部の視点を入れると、後続の「高精度・高品質な美術分野」に特化できる理由にもなるので因果関係が強まります。

理由は、
事務用印刷の技術革新による競争激化を受け、工場を持たずに、顧客ニーズへの対応力を活かした高精度・高品質な美術品分野に経営資源を集中させることで、価格競争を避ける差別化集中戦略をとったため。

与件文の５段落目に「顧客の細かいニーズに対応できるような分業体制」という記述があり、「顧客ニーズへの対応力」という効果はこのファブレス化による効果として求められている要素と考えられます。

また「差別化」と「価格競争の回避」という２つの要素も、このファブレス化による差別化集中戦略の結果としてはもっとも大きな効果であるため加点に繋がっているものと考えられます。

先代経営者からの事業承継や後継経営者の新規事業の立ち上げに関して、経営組織の視点から分析する能力を問う問題である。
◆Ａ：事業承継や後継経営者の新規事業の立ち上げ
◆Ｂ：経営組織の視点　→　幸の日も毛深い猫の後半「権限移譲/部門/階層/ネットワーク/コミュニケーション」を利用

理由は、
①前職の広告代理店での広告の知識・人脈・共同PJ推進力を活かせるため。
②今後コア分野となる新規事業を任せることで経営ノウハウを習得させ、後継として育成するため。

新規事業が今後の柱となっていく点で「新規事業」の視点を、育成という要素で「事業承継」の視点をそれぞれ明記しています。

事業承継について触れられている解答は道場メンバーでも少なく、文字数が限られる中で「新規」と「承継」どちらの要素も漏らしていない点は素晴らしいです。

理由は、
①前職の広告代理店での広告の知識・人脈・共同PJ推進力を活かせるため。
②今後コア分野となる新規事業を任せることで経営ノウハウを習得させ、後継として育成するため。

「人脈とノウハウの利用」について、どちらかといえば人事寄り（「幸の日も毛深い猫」で言えば配置、育成の要素）という印象です。

ここでは趣旨で述べられている「組織視点」ということが分かる要素を入れておくと安全です。
追加する要素は、後続の育成を行うための組織作りという視点で「連携強化」や「組織活性化」あたりが無難かと思います。

●Ｃ：事業承継
●Ｄ：前職の知見・ノウハウ
●Ｅ：戦略の効果

理由は、
①前職の広告代理店での広告の知識・人脈・共同PJ推進力を活かせるため。
②今後コア分野となる新規事業を任せることで経営ノウハウを習得させ、後継として育成するため。

「新規事業を任せる」→「経営ノウハウ習得」→「後継」と綺麗に時系列で繋がっており、文句が思いつきません。

理由は、
①前職の広告代理店での広告の知識・人脈・共同PJ推進力を活かせるため。
②今後コア分野となる新規事業を任せることで経営ノウハウを習得させ、後継として育成するため。

前職が広告代理店であることも含め、知識やノウハウを活かすことが明記されており、非常に分かりやすいです。
デザイン部門では外注先の企業との連携が重要になるため、共同PJの推進力がある点をピックアップしているところも3代目を抜擢した理由の裏付けになっています。

理由は、
①前職の広告代理店での広告の知識・人脈・共同PJ推進力を活かせるため。
②今後コア分野となる新規事業を任せることで経営ノウハウを習得させ、後継として育成するため。

３代目の「共同PJの推進経験」に触れており、この視点が非常に良いと思います。
ただ、この経験を活かすことでどうなるのか、という「結果」が入っていればもっと加点が見込めるはずです。

「今後コア分野となる」で新規事業を伸ばしていく方向性を明記しているため、ここを少し表現を変え「新規事業をコア分野として拡大し」とすると戦略の効果として加点が期待できます。

他にも「共同PJの推進経験」から、これを活かした「組織活性化」も戦略の効果としては定番となるため追加する要素の候補に入ると思います。

「プロジェクト」→「PJ」への文字数短縮は賛否あると思いますが、これくらいなら許容範囲かと思います。
理由としては２点。
ひとつは、プロジェクトを「PJ」と略すケースは目にする機会も多く一般的な表現と考えられること。
もうひとつは、与件で「共同プロジェクト」と記載があるため「共同プロジェクト」＝「共同PJ」の連想が用意だからです。

極力与件の表現は変更しないのがセオリーですが、文字数短縮のための工夫としては積極的に利用していきたいところです。

事例企業の競合との差別化や新規事業と既存事業とのシナジー効果について、事業戦略の視点から分析する能力を問う問題である。
◆Ａ：競合との差別化、既存事業とのシナジー効果
◆Ｂ：事業戦略の視点で分析　→　「広告制作業で何をするか」を問われている

利点は、
①外部との連携による組織活性化、②環境変化に対応できる、③前職のノウハウ活用できる点。
欠点は、
①競争が激しく受注を増やせないこと、②経営資源の分散を招く恐れがあること。
③競争が激しく、市場開拓のための資源もないため、受注が増加していないこと

「ノウハウ活用」によるシナジー効果が想起されますが、「差別化によるシナジー」まで明記できていればさらに加点が見込めた様に思えます。

利点は、
①外部との連携による組織活性化、②環境変化に対応できる、③前職のノウハウ活用できる点。
欠点は、
①競争が激しく受注を増やせないこと、②経営資源の分散を招く恐れがあること。
③競争が激しく、市場開拓のための資源もないため、受注が増加していないこと

内部の視点で「ノウハウ活用」、外部の視点で「競争激化」への「連携」による対応という両面での戦略が見えてきます。
共に新規事業である広告事業のことを挙げており、「事業戦略」の視点になっています。

●Ｃ：利点(内部/外部)
●Ｄ：欠点(内部/外部)

利点は、
①外部との連携による組織活性化（内部）、②環境変化に対応（外部）できる、③前職のノウハウ活用（内部）できる点。
欠点は、
①競争が激しく受注を増やせないこと、②経営資源の分散を招く恐れがあること。
③競争が激しく、市場開拓のための資源もないため、受注が増加していないこと

内部の視点で「組織活性化」と「ノウハウ活用」、外部の視点で「環境変化への対応」と両面で解答できています。
他に挙げるとすれば内部の視点で「経営リスクの分散」、外部の視点で「シナジーによる競争力強化」あたりが定番です。

利点は、
①外部との連携による組織活性化、②環境変化に対応できる、③前職のノウハウ活用できる点。
欠点は、
①競争が激しく受注を増やせない（外部）こと、②経営資源の分散（内部）を招く恐れがあること。
③競争が激しく（外部）、市場開拓のための資源もない（内部）ため、受注が増加していない（外部）こと

内部の視点で「経営資源の分散」「資源の不足」、外部の視点で「競争激化」「受注困難」を挙げており、広く捉えられています。

欲を言えば①の「競争が激しく受注を増やせない」と、③の「競争が激しく」が全く同じことを言っているため文字数がもったいないです。

利点と欠点でそれぞれ要素は３つずつですが、文字数が大きく異なり少しバランスが悪い印象です。
①の「競争が激しく受注を増やせない」と③の「競争が激しく」を一つに統合し、浮いた文字数で「利点」の補完に使うのもアリかと思います。

協力企業との関係とネットワークの構築について、助言する能力を問う問題である。
◆Ａ：協力企業との関係
◆Ｂ：ネットワークの構築

①アライアンスを組み、営業活動を含め連携体制を強化、
②必要に応じて人材を正社員に登用し、社内にノウハウが蓄積する体制を構築、
③協力企業と新会社を設立。これらにより外部との連携体制の強化を図る。

協力企業との関係強化で一貫しています。

与件の７段落目に「プロジェクトチームごとのチーム編成」であることが記載されており、ノウハウがそれまで社内へ蓄積できていないことが読み取れます。
ノウハウが蓄積される体制作りは、その解消に繋がるため方向性として趣旨を捉えられていると考えられます。

●Ｃ：発展のための取り組み
●Ｄ：取組の効果

①アライアンスを組み、営業活動を含め連携体制を強化、
②必要に応じて人材を正社員に登用し、社内にノウハウが蓄積する体制を構築、
③協力企業と新会社を設立。これらにより外部との連携体制の強化を図る。

連携体制の強化は必須と言える取組のため、これは外せない内容でした。
ただ、惜しいのは①「連携体制を強化」と③「連携体制の強化」で全く同じ表現があり字数が勿体なく感じます。

この部分を一つにまとめると字数に余裕ができ、取り組みの効果を追加することもできます。
「協力企業とのアライアンスや新会社設立による継続的な連携体制強化により営業力を含め競争力を強化する」など

②の正社員登用ついてはノウハウ蓄積のための良い手段ではあると思いますが、今回は加点に繋がっていないと思われます。

A社が分業体制を構築してきたのは外部の専門的なノウハウを利用し、自社がディレクション業務に集中するためです。
個人的な見解になってしまいますが、社内への取り込みではなくあくまで外部の協力企業としての関係を強化することを目的としており、所属の変更までは出題者の意図にないと考えられるからです。

①アライアンスを組み、営業活動を含め連携体制を強化、
②必要に応じて人材を正社員に登用し、社内にノウハウが蓄積する体制を構築、
③協力企業と新会社を設立。これらにより外部との連携体制の強化を図る。

社内へのノウハウ蓄積は具体的な取り組みの効果として、イメージしやすく非常に良いです。
できればノウハウを蓄積した結果、どのような良いことがあるのかまで踏み込めると更に加点が見込めると思います。

「差別化」や「競争力強化」により、Ａ社が現在苦労している「新規顧客の開拓」に繋がる点を取り上げておくと、取り組みを行う理由付けとしても説得力が増します。

次世代経営者の事業戦略や経営組織の構築に関わる論点について、提言する能力を問う問題である。
◆Ａ：次世代経営者の事業戦略
◆Ｂ：経営組織の構築　→　幸の日も毛深い猫の後半「権限移譲/部門/階層/ネットワーク/コミュニケーション」を利用

課題と解決策は
①社内にノウハウを蓄積できる体制構築のため社外の人材を採用し
②営業力強化のため営業部を設置し、新規顧客を取り込み
③後継育成と従業員の士気向上を図るため適正な人員配置や権限移譲を行うこと。

A社の目標である新規顧客の獲得に触れており、長期の目標として適切と考えられます。

課題と解決策は
①社内にノウハウを蓄積できる体制構築のため社外の人材を採用し
②営業力強化のため営業部を設置し、新規顧客を取り込み
③後継育成と従業員の士気向上を図るため適正な人員配置や権限移譲を行うこと。

A社の課題として与件でも取り上げられている「営業力」への対応として「営業部の設置」、人材の採用や配置、権限移譲による士気向上と、組織作りに必要な要素が広く取り上げられています。

●Ｃ：長期的な課題
●Ｄ：解決法

課題と解決策は
①社内にノウハウを蓄積できる体制構築のため社外の人材を採用し
②営業力強化のため営業部を設置し、新規顧客を取り込み
③後継育成と従業員の士気向上を図るため適正な人員配置や権限移譲を行うこと。

与件から想定されるA社の課題である「営業力」を強化することで、苦戦している「新規開拓」を解決するという方向性が明記されており、長期課題として適切です。

課題と解決策は
①社内にノウハウを蓄積できる体制構築のため社外の人材を採用し
②営業力強化のため営業部を設置し、新規顧客を取り込み
③後継育成と従業員の士気向上を図るため適正な人員配置や権限移譲を行うこと。

営業部の設置により（因）→（果）営業力を強化、と因果が繫がり説得力があります。
配置や権限移譲による士気向上も組織の活性化に繋がる良い解決方法と思います。

個人的には①「社外人材の採用」については第４問でも指摘させていただいた通り、おそらく出題者の意図にはないと思われます。
採用については営業力の方で使用して「営業人材の採用や専任部門の設置により営業力を強化し新規顧客の取り込みを図る」など後続に繋げるのもありです。