【中小企業診断士二次試験】令和３年度_事例Ⅰ_趣旨とふぞろいで再現答案分析[YOSHIHIKO：開示得点69]

ニッチ戦略、高付加価値分野への経営資源の再配分について、経営戦略の視点から分析する能力を問う問題である。
◆Ａ：ニッチ戦略、高付加価値分野への経営資源の再配分　→　経営資源の集中投下
◆Ｂ：経営戦略の視点　→　戦略レイヤー（経営者視点）

理由は、
オフセット印刷機の普及や情報通信技術の進化等の技術革新により高度な専門知識が不要となり、
印刷業への参入障壁が低く競争激化し、
制作物の一括受注体制で顧客の細かいニーズに対応し、差別化を図るため。

ニッチ戦略の常套手段である「差別化」を取り上げています。

少し気になるのは、差別化の内容を「細かいニーズへの対応力の増加」としており、一括受注体制をその源泉としている点。
ニッチ戦略の基本は差別化集中戦略であり、その真価は経営資源を強みに集中させて局所で競争に勝つことにあります。

今回の解答は、ディレクション業務への経営資源の集中として捉えられなくはありません。
ただ、採点者の立場としてみた場合に加点項目として迷いを与えることはできれば避けた方が安全です。

美術印刷への特化という「高品質路線」が与件で示されているため、素直に「経営資源を高品質分野に集中する差別化集中戦略」とした方が趣旨に沿うと思われます。

●Ｃ：外部環境の変化に言及できているか（外部環境という「因」によりファブレス化した「果」、となる様に因果を繋げる）
●Ｄ：戦略を記載しているか（今回はこれが趣旨の「経営資源の集中投下」に繋がる様に設定する）
●Ｅ：戦略の効果を記載しているか

理由は、
オフセット印刷機の普及や情報通信技術の進化等の技術革新により高度な専門知識が不要となり、
印刷業への参入障壁が低く競争激化し、
制作物の一括受注体制で顧客の細かいニーズに対応し、差別化を図るため。

やや、外部環境変化に割く文字数が多く感じられるものの、質・良ともに完璧だと思います。

オフセット印刷機の普及＆情報通信技術の進化（因）
　↓　
総じて「技術革新」（因）
　↓
（果）専門知識不要＆参入障壁低下（因）
　↓
（果）競争激化

全て繋がっており、因果関係も完璧で分かりやすいです。　

理由は、
オフセット印刷機の普及や情報通信技術の進化等の技術革新により高度な専門知識が不要となり、
印刷業への参入障壁が低く競争激化し、
制作物の一括受注体制で顧客の細かいニーズに対応し、差別化を図るため。

差別化を基本戦略として取り上げています。

欲を言えば「ファブレス化」によって工場を持たなくて良くなる（＝その分の経営資源を他に注力できる）という点を入れておくと加点に繋がったと考えられます。

理由は、
オフセット印刷機の普及や情報通信技術の進化等の技術革新により高度な専門知識が不要となり、
印刷業への参入障壁が低く競争激化し、
制作物の一括受注体制で顧客の細かいニーズに対応し、差別化を図るため。

顧客の細かいニーズへの対応については与件から想起できる内容で、差別化の効果としても適しています。
今回の解答では外部環境の変化に比重が傾いており、要素に偏りが見られたのが少し気になりました。

採用する要素のバランスをとることが、合格点を目指す上で最も重要になる「安定感」に繋がります。

先代経営者からの事業承継や後継経営者の新規事業の立ち上げに関して、経営組織の視点から分析する能力を問う問題である。
◆Ａ：事業承継や後継経営者の新規事業の立ち上げ
◆Ｂ：経営組織の視点　→　幸の日も毛深い猫の後半「権限移譲/部門/階層/ネットワーク/コミュニケーション」を利用

理由は
①前職でのノウハウ・人脈を生かし、デザイン部門の専門性を強化するため
②外部や社内人材の管理と部門統括を経験させ後継者として育成するため
③外部連携を強化し組織活性化を行い外部環境変化に対応するため。

新しい部門の強化で「新規事業」の視点、後継者としての育成で「事業承継」の視点をともに満たしています。

③も設問１の流れを汲んでおり、説得力が増しています。
外部環境変化への対応については加点項目としては取り上げられていませんが、新規事業強化に繋がる要素であることと、設問１からの繋がりを意識している点で個人的には非常に良く考えられていると感じました。

理由は
①前職でのノウハウ・人脈を生かし、デザイン部門の専門性を強化するため
②外部や社内人材の管理と部門統括を経験させ後継者として育成するため
③外部連携を強化し組織活性化を行い外部環境変化に対応するため。

何も言う必要が無いくらい、経営組織の視点として必要な要素が全て入っています。
①ノウハウの活用→②管理者権限→③外部の連携と内部の活性化、と流れも良く順番も文句なしです。

●Ｃ：事業承継
●Ｄ：前職の知見・ノウハウ
●Ｅ：戦略の効果

理由は
①前職でのノウハウ・人脈を生かし、デザイン部門の専門性を強化するため
②外部や社内人材の管理と部門統括を経験させ後継者として育成するため
③外部連携を強化し組織活性化を行い外部環境変化に対応するため。

②の中で綺麗に纏められており、文字数も言葉選びも何も指摘することがありません。

理由は
①前職でのノウハウ・人脈を生かし、デザイン部門の専門性を強化するため
②外部や社内人材の管理と部門統括を経験させ後継者として育成するため
③外部連携を強化し組織活性化を行い外部環境変化に対応するため。

ノウハウと人脈の活用に言及しており、良いと思います。
②社内人材管理はおそらく人材採用も含めてのことと思われますが、「採用」まで明記した方が良いと思います。

今回は与件にて「デザイナー採用」が明記されており、これが３代目の成果として考えられるためです。
※設問２で問われている２代目が「３代目にやってほしかったこと（狙い）」がこの「デザイナー採用」まで含めた人材管理と考えることができます。

理由は
①前職でのノウハウ・人脈を生かし、デザイン部門の専門性を強化するため
②外部や社内人材の管理と部門統括を経験させ後継者として育成するため
③外部連携を強化し組織活性化を行い外部環境変化に対応するため。

組織の活性化と外部環境変化への対応と２つが取り上げられており、戦略の効果としては十分です。
欲を言えば、A社の最終目標である「収益性の拡大」や「新規開拓」まで明記しておくと加点に繋がります。

組織の活性化と外部環境変化への対応については戦略レイヤーではあるものの、新規事業の事業戦略に近いです。
今回は部門統括の選定理由が問われており、解答すべきは最上位の経営戦略として考えられます。
その場合は、戦略の効果として求めているものは「新規事業での新規開拓の成功」と「既存事業への依存からの脱却」あたりが適しているように感じます。

事例企業の競合との差別化や新規事業と既存事業とのシナジー効果について、事業戦略の視点から分析する能力を問う問題である。
◆Ａ：競合との差別化、既存事業とのシナジー効果
◆Ｂ：事業戦略の視点で分析　→　「広告制作業で何をするか」を問われている

利点は
①関連多角化でシナジー効果を発揮し、高精度な仕上がりが求められる美術印刷分野の需要を獲得
②ディレクション業務への特化で経営資源を有効活用。
欠点は、
職人のノウハウやコア技術による競争優位性の低下。

ディレクション業への特化、そして関連多角化によるシナジーと「差別化」「シナジー」ともに取り上げることができています。

利点は
①関連多角化でシナジー効果を発揮し、高精度な仕上がりが求められる美術印刷分野の需要を獲得
②ディレクション業務への特化で経営資源を有効活用。
欠点は、
職人のノウハウやコア技術による競争優位性の低下。

内部の視点で「多角化」と「経営資源の有効活用」、外部の視点で「競争力」と広く捉えられています。

気になるのは「美術印刷部門の需要獲得」という点。
今回は事業戦略が求められおり、新規事業である「広告制作業」についての設問となります。

美術印刷は既存事業であり、今回の広告制作業の事業戦略とは異なるためこちらは加点対象としては含まれなかったものと思われます。

利点２つに欠点１と、欠点の要素が少し薄いです。
「美術印刷分野の需要」についての記述を削り、与件で問題視されている「営業力の不足」などを挙げておくと利点と欠点のバランスが良くなり加点も見込めたと思います。

●Ｃ：利点(内部/外部)
●Ｄ：欠点(内部/外部)

利点は
①関連多角化でシナジー効果を発揮し、高精度な仕上がりが求められる美術印刷分野の需要を獲得
②ディレクション業務への特化で経営資源を有効活用。
欠点は、
職人のノウハウやコア技術による競争優位性の低下。

内部の視点については「シナジー」「特化」「経営資源の有効活用」と３つ挙げています。
ただし「シナジー」と「経営資源の有効活用」がほぼ同じであることと、「特化」を「ディレクション業務」に限定していることから既存事業の施策であると判断された場合は加点要素から外れる可能性があります。

実質、加点要素が「シナジー」の１つのみと判断された可能性があるため、内部視点だけでなく新規開拓などの外部の視点を追加するなどの対応が必要と考えられます。

利点は
①関連多角化でシナジー効果を発揮し、高精度な仕上がりが求められる美術印刷分野の需要を獲得
②ディレクション業務への特化で経営資源を有効活用。
欠点は、
職人のノウハウやコア技術による競争優位性の低下。

欠点として取り上げているものが「競争優位性の低下」１つとなっており、少ないかなという印象です。
「職人のノウハウやコア技術による競争優位性の低下」まで全て含めて、一次試験の範囲で勉強する多角化の欠点である「経営資源の分散」と短く表現できます。

情報漏洩のリスクやノウハウ流出まで含めてリスクとして取り上げたためにこの様な表現になっているのかと思いますが、漏洩リスクやノウハウ流出についてはどちらかと言えば「ファブレス化」による欠点に近いです。

今回は広告制作業という新事業に進出したことで顕在した利点と欠点のため、多角化による欠点を取り上げる必要があります。
その意味でも表現を「経営資源の分散」に留め、浮いた文字数を「厳しい市場競争」などの説明に充てることで加点要素を増やす方が安全です。

協力企業との関係とネットワークの構築について、助言する能力を問う問題である。
◆Ａ：協力企業との関係
◆Ｂ：ネットワークの構築

助言は
①企業間の人材交流で連携強化し、
既存案件の業務遂行の円滑化およびコア技術となる新たなノウハウを獲得すること。
②共同開発を行い、
差別化した商品やサービスを提供し新たな案件を獲得すること。

協力企業との連携強化を軸に「人材交流」「共同開発」と具体案も取り上げています。
①では交流→連携強化→業務円滑化とノウハウ取得と内部の視点でまとめ、②では共同開発→差別化→新規獲得と外部の視点でまとめています。

複数の要素を取り上げる際、内部と外部の要素が混在しやすく読みにくい文章になることが多いのですが、この解答ではきっちり区分けして作成されており非常に読みやすい文章になっています。

●Ｃ：発展のための取り組み
●Ｄ：取組の効果

助言は
①企業間の人材交流で連携強化し、
既存案件の業務遂行の円滑化およびコア技術となる新たなノウハウを獲得すること。
②共同開発を行い、
差別化した商品やサービスを提供し新たな案件を獲得すること。

交流による連携強化（内部）と共同開発（外部）を軸にしており、少ない文字で多面的な解答になっています。

助言は
①企業間の人材交流で連携強化し、
既存案件の業務遂行の円滑化およびコア技術となる新たなノウハウを獲得すること。
②共同開発を行い、
差別化した商品やサービスを提供し新たな案件を獲得すること。

既存案件の業務円滑化についてはシナジー効果を発揮した結果と読み取れるため、おそらく加点に繋がったと思われます。
新たなノウハウ獲得についてもコア技術の習得という点で差別化に繋がる要因であり加点項目として考えられます。

ただし、ともに一次試験範囲の知識で言い換えが可能なため、できれば以下の様に表現を変更しておいた方が安全と言えます。
「既存案件の業務円滑化」→「シナジー」
「新たなノウハウ獲得」→「高付加価値化により差別化」

新たな案件獲得という新規開拓の要素はA社の抱える課題の大きなウェイトを占めると考えられるため、これを最後に取り上げているのはとても良いと思います。

次世代経営者の事業戦略や経営組織の構築に関わる論点について、提言する能力を問う問題である。
◆Ａ：次世代経営者の事業戦略
◆Ｂ：経営組織の構築　→　幸の日も毛深い猫の後半「権限移譲/部門/階層/ネットワーク/コミュニケーション」を利用

課題は
①全工程における外部依存度を下げること②広告制作分野における差別化を図ること③新規市場開拓をすること。
解決策は
①専門性を明確にしノウハウを獲得すること②外部企業との共同開発③営業部門の新設。

外部依存度については事例Ⅰでは大口顧客への依存が高かったり、特定の取引先に左右される例が多かったことからの推測と予想できます。
A社の方向性としてこれから外部との連携を強化していくという方針を設問４で示していることから、外部依存度を下げる点については今回は入れない方が統一感があって良いと思います。

外部企業との関係性強化を進めていけば、ゆくゆくは外部依存度の問題は生じてくると思います。
ただ、設問４で「外部との関係性をどうやって進めていくか」と問われていることから、少なくとも今は外部との協力関係はむしろ増していく方針であり、設問間の統一性という視点でもここで課題として取り上げるのは適切とは言えないと思います。

「新規市場の開拓」については長期的な課題として適しており、必須の観点と考えられます。

課題は
①全工程における外部依存度を下げること②広告制作分野における差別化を図ること③新規市場開拓をすること。
解決策は
①専門性を明確にしノウハウを獲得すること②外部企業との共同開発③営業部門の新設。

与件で示されている「営業力不足」に対する「営業部門の新設」、設問４の流れを汲む「外部企業との共同開発」といった組織面で対応すべき解決策を取り上げています。

●Ｃ：長期的な課題
●Ｄ：解決法

課題は
①全工程における外部依存度を下げること②広告制作分野における差別化を図ること③新規市場開拓をすること。
解決策は
①専門性を明確にしノウハウを獲得すること②外部企業との共同開発③営業部門の新設。

外部依存度については先の趣旨のところでも述べた通り、ここでは外しておいた方が良いと思います。
課題として「差別化」「新規開拓」、解決策として「ノウハウの獲得」「共同開発」「営業部」をとりあげており幅広く要素を押さえられています。

繋がりとしては「ノウハウの獲得」「共同開発」「営業部」→「差別化」→「新規市場開拓」という流れで因果が成立しますが「ノウハウの獲得」「共同開発」「営業部」と「差別化」の間にいくつか繋ぎの要素があると自然になります。

課題の①を削除し、多少文言をいじってみるとこうなります。
※太文字が元の要素、緑文字が追加した要素

課題は新規市場を開拓し収益性を向上すること。
解決策は①外部企業との共同開発でノウハウ習得と組織活性化を実現②営業部設置と専門人材採用で営業力強化。③高付加価値化による差別化を実現し市場競争力を獲得。（99文字）

要素を盛り込むために若干強引な部分もありますが、こんな感じです。
①「外部連携でノウハウ獲得」→「組織活性化」で社内の技術を向上させて広め、③「高付加価値化による差別化」を実現させることでまずは市場で戦う製品（サービス）自体の強化を行う。

②「営業力強化」で強化した製品（サービス）を売り込む力を身につける。

以上により市場競争力を獲得して（因）→（果）収益性を向上させる、という流れです。